新生活や仕事の都合などにともない、
長年住んだ部屋からお引っ越し!という方は、
ある時期になると増えますよね。
賃貸から賃貸へ移ることも、
賃貸から新しく建てた家に移ることもあるでしょう。
そんなとき、気になってしまうのが退去時にかかる費用。
長く暮らした部屋には、生活しただけ傷や汚れが発生してしまうものです。
「現状回復」という言葉があるように、
退去時にはある程度借りていは部屋を綺麗にしていく必要があります。
しかし、フローリングの傷や壁紙のはがれなど、部屋を借りている
という立場ではどうにも対処できないものがあるでしょう。
今回は、賃貸物件から退去するときに知っておきたい
「敷金の返却」や「現状回復のためのクリーニング代」
といったキーワードにスポットを当ててお話したいと思います。
引越し時に分かった床の傷、補修費用はどうなる?
●敷金ありの物件に住んでいた場合と敷金なしの物件に住んでいた場合の違いは?
不動産のお店やインターネットで物件を探すとき
「敷金なし」という条件が設定できることがありますよね。
では、敷金とはいったいどういったお金のことを指すのでしょう?
2017年に改正された民法「債権法」の改正要網案の中に、こんな記述があります。
いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃借人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。
(出典:民法(債権関係)の改正に関する要綱案)
公的な書類の中の記述ですので、やや難しいですね。
平たくいうと
「それがどんな名前であるかに関わらず、家賃や部屋の修繕などの担保として、
部屋を借りて住む人が部屋を貸す人に対して支払うお金のこと」であれば、
民法にのっとってすべて「敷金」という定義になります、
ということが決まったのです。
これは債権法の改正まで法律で明確に決まっておらず、
大家さんや不動産業者の裁量によって決まることが多かったのです。
また、改正された債権法の中には
「賃借人(部屋を借りて住んでいた人)が修繕費を負担する傷や汚れ」と
「賃貸人(部屋を貸している人、つまり大家さん)が修繕費を負担する傷や汚れ」が
明確に提示されています。
これを受けて、敷金ありの物件と敷金なしの物件の違いをみてみましょう。
●敷金ありの物件の場合
敷金を支払って住んでいた物件は、予期せぬ破損や汚れに対して
敷金という担保があります。
ですので、もし退去時に
「賃借人(借りていた人)が修繕費を負担する傷や汚れ」
が見つかれば、
それに対する修繕費は基本的に敷金の中から支払われることになります。
もし支払った敷金の金額を超えるほどの修繕費が必要になれば、
超過分を賃借人(借りていた人)が負担することになってしまいますが。
●敷金なしの物件の場合
敷金は予期せぬ破損や汚れに対する担保であると説明しましたね。
その担保を払わず部屋を借りるということは、
もし「賃借人(借りていた人)が修繕費を負担する傷や汚れ」
が退去時に見つかった場合、
その修繕費は賃借人が全額負担することになります。
また、入居時にもらう契約書に特別な契約内容として
「法律ではこうなっているが、うちで部屋を借りるときに◯◯をしたらその分は負担してもらう」
と書かれていることもあります。
敷金なしの物件から退去するときは、契約書をよく読むことも大切です。
ただし、これに便乗して、
本来ならば「賃貸人(大家さん)が修繕費を負担する傷や汚れ」
とされている部分の修繕費もまとめて請求する悪質な立ち会い業者もいます。
また、賃貸人である大家さんが改正された法律について理解しておらず、
本来は賃貸人(大家さん)負担となっている傷や汚れの修繕費まで請求されることも。
請求された内容に納得がいかない場合や、
疑問を覚えた場合は消費者センターに相談してみるのもいいですね。
●傷や汚れの種類によって、負担する人が変わります
さきほど軽く触れましたが、部屋で発生した傷や汚れの種類によって
修繕費を誰が負担するのか、ということが変わります。
これは債権法だけでなく国土交通省がガイドラインとして
発表しているものもありますので、トラブルの際には大きな助けとなるでしょう。
・賃借人(借りていた人)の負担になる傷や汚れの一例
①日常の掃除を怠ったことでできた傷や汚れ
飲み物をこぼしてしまった後よく拭かなかったり、
キッチンや浴室の掃除をサボって水垢やカビがついてしまったり・・・。
部屋をきれいにするための掃除をせず、
その結果発生した傷や汚れについては、賃借人(借りていた人)の負担になります。
窓についた結露から発生したカビや、ガスコンロ上にある換気扇に
ついた油汚れなどもこれに当てはまるためる余計なお金を払いたくない場合は
定期的な掃除が欠かせませんね。
②賃借人(借りていた人)の意思で行った作業でついてしまった傷や汚れ
壁に画鋲でポスターを貼ったり、
天井からモビールやベッドの天蓋などを吊るしておしゃれな部屋にしたい!
と思って金具を取り付けたり。
そんな穴も、法律の上では傷だと判断されます。
賃貸物件では基本的に
「壁や天井に穴を空けるような家具は使わないでください」
と言われているはずなので、
プチリフォームや禁止された家具の設置による傷や汚れの
修繕費は賃借人(借りていた人)の負担です。
キャスター付きの椅子をフローリングの上で使い、
その結果ついてしまったキャスターの跡も同じように
賃借人(借りていた人)の負担で修繕することになりますので要注意。
また、引っ越し作業中に家具や荷物をぶつけてできてしまった傷も
賃借人(借りていた人)の負担で修繕することになります。
ただ、この場合ぶつけてしまったのが引越し業者なのであれば
引越し業者に請求してください。
引越し業者かどうかはっきりしない場合は
賃借人(借りていた人)の負担になってしまいますので
引越しの際に傷が付いたと思われる場合は
すぐに引越し業者に確認してみましょう。
引っ越し業者を頼むときは、作業がていねいな会社を選びましょう。
③タバコのヤニや特殊な洗浄液を使わないと落ちないペンキ等、通常のハウスクリーニングでは取れない汚れ
部屋の中でタバコを吸うと、
だんだん壁紙が黄ばんでしまうのは有名な話ですね。
タバコによるヤニの汚れは市販の洗剤で
拭いただけでは取ることができず、
壁紙を張り替えることになってしまいます。
DIY愛好家や芸術系の学校に通う学生さんは、塗料汚れにも注意です。
塗料も通常の掃除ではなかなか落ちないため、
賃借人(借りていた人)の負担によって壁紙の張り替えをすることになります。
家具のリメイクや作品製作は、できる限り外で行いましょうね。
・賃貸人(大家さん)の負担になる傷や汚れの一例
①生活に必要な家具の設置による傷や汚れ
冷蔵庫やエアコン、テレビなどは生活していく上で
多くの人が必要とする家具ですよね。
こういった家具を長い間同じ場所に設置しておくと、
どうしてもカーペットやフローリングがへこんで
跡がついてしまいます。
また、家電が稼働するときに放射されるわずかな熱によって
壁紙が変色してしまうこともありますね。
こういった生活をしていく上でどうしても避けられない傷や汚れは、
賃貸人である大家さんや不動産業者の負担にて修繕することになります。
②経年劣化による傷や汚れ
東向きの部屋は朝日が入り、
雰囲気も明るくなっていいですよね。
ですが日光に当たることで壁紙やフローリングが
色あせてしまうことがあります。
また、長く部屋を使っていると劣化によって
壁紙がはがれてきたり、フローリングの耐久性が下がってしまうことも。
日頃の掃除ではどうにもならない経年劣化による汚れや傷は、
部屋の管理を行っている大家さんや不動産業者が
修繕費を負担することになります。
③部屋に備え付けのものや、部屋の構造そのものによる傷や汚れ
家具つきマンションが増えてきたおかげか、
テレビやエアコンなど高価な家電を購入しなくても
快適に住むことが可能になっていますね。
そういった部屋に備え付けの家具のトラブルによる汚れや傷、
もともと部屋に備え付けてある窓の網戸や退去時の鍵の交換も
賃貸人(大家さん)の負担での修繕になります。
また、備え付けのエアコンの取り付け位置によって
排水が室内の壁を汚したりカビが発生したりというケースもあります。
こういった、備え付けで変えることができない家具のトラブルによる
傷や汚れに関しても、修繕費は賃借人(大家さん)の負担です。
④賃借人(借りていた人)でも賃貸人(大家さん)でもない、第三者や災害による傷や汚れ
昨今ニュースで取り上げられることが増えた、
他人の住むアパートやマンションを狙ったいたずら。
非常に悪質で、犯人の顔が見えず恐ろしいものですよね。
また、地震によって家具が倒れ、壁紙に傷がついてしまう場合もあります。
賃借人(借りていた人)や賃貸人(大家さん)ではない別の誰かや、
人の力では防ぎきれない災害によってついてしまった傷や汚れの
修繕費も賃貸人(大家さん)の負担です。
気になる!引越し時の、敷金返還について
2017年4月に民法についての改正が行われ、
賃貸物件からの退去時に必要となる「原状回復」についてや
「敷金を扱う上での決まりごと」についても
大きく見直されることとなりました。
これまでは賃貸人(大家さん)や不動産会社の裁量が
まかりとおることも多かった領域に
民法という確実な基準が設けられることで、
借主と賃貸人の間で起きるトラブルが少なくなることでしょう。
●債権法で決定された、敷金の返還について
改正された債権法の中では、適切な方法にのっとって
賃借人(借りていた人)が賃貸人(大家さん)に部屋を引き渡したとき、
賃貸人(大家さん)は必ず敷金を返却しなくてはならないということが
明確に記載されています。
特に問題なく部屋を引き渡したのに
敷金が返却されない場合は、
民法に違反しているということになるのですね。
債権法の中では、敷金の返却についても明記されています。
そのままの文面ではややわかりにくいため、
わかりやすくまとめてみましょう。
(1)敷金を受け取った賃貸人(大家さん)は、以下の状態で賃借人(借りていた人)が
部屋を引き渡したときに必ず敷金を返還しましょう。
ア 部屋を貸す期間が終了し、かつ部屋や鍵など貸していたものすべての引き渡しが終わったとき。
イ 賃借人が法律に違反せずに部屋を引き渡し、部屋の権利が賃貸人に渡ったとき。
部屋を入居前の状態に近い状態になるまできれいに掃除し、
大きな破損や汚れもない状態で部屋を退去できる場合は、
敷金は全額賃借人(借りていた人)に返還しなさい、ということです。
また、修繕が必要になった場合についても債権法に明記されています。
こちらも平易な言葉でご紹介しますね。
(2)賃借人(借りていた人)が修繕すべきとされている傷や汚れを
修繕しないまま退去した場合、
賃貸人(大家さん)は支払われた敷金を使って部屋の修繕を行うことができます。
ただしこれはあくまでの賃貸人の判断によって行われるもので、
賃借人(借りていた人)が「敷金を使って修繕してください」
と提案することはできません。
敷金を使うかどうかはあくまでも、
大家さんや不動産業者によって判断されるようですね。
部屋を借りている身分では「敷金使ってください」
とは言えないようなので、もし大きな傷や汚れをつけてしまったら、
部屋を貸してくれている賃貸人(大家さん)とよくよく話し合いましょう。
まとめ
知っているようで意外と知らない人が多い、
敷金や現状回復についてのお話でした。
せっかく部屋を貸してくれたのですから、
できるだけ丁寧に使いたいものですよね。
定期的な掃除をするのはもちろん、
賃貸契約に関する知識を持っていることで退去がよりスムーズになります。
これから引っ越しの予定がある方や引っ越しを検討中の方は、
覚えておくと便利かもしれません。
※個々の状況により上記と異なる可能性がありますので、本記事はあくまで
参考としてご活用ください。